こんな研修に行ってきた。

講義 南山短期大学名誉教授 星野欣生 氏
「利用者、家族、職員との関係づくりに役立つコミュニケーション」
 家庭裁判所の調査員として20年ほど勤め、某社のコンサルタントとして人間関係トレーニングを2年ほど担当。
南山短期大学に人間関係学科が創設され、招聘されて定年まで勤めた。
現在は名誉教授の肩書きを持ってはいるがフリーで、グループワークの研修を行っている。
看護師さん、保母さんの研修にあたることが多い。

 「今の世の中は包み合いを忘れてしまっている。」とは、内山節氏の中日新聞コラムでの言葉。
包む・包まれるとうものを、自分も忘れてしまっていたことに気がついた。
「包む」とは、風呂敷で包み込むイメージ。
TVドラマのキムタク演じる検事が、重要書類を風呂敷で包んでいた、あのイメージ。
実際に現在でも検事は官給品の風呂敷を使用している。
大切に大切に、無くならないように包み込む。
あなたは誰かを包んでいるか?
誰かに包まれているか?
家族は自分を包む存在だと多くの人が言えると思う。
職場ではどうだろうか?
包まれているという実感が安心につながる。
 
コミュニケーションは3つの力で成り立っている。
?伝達する(話す)力と反応する(聴く)力
?受容する力
?観察する力
それぞれが密接な関係にある。
 

?伝達する力と反応する力
コミュニケーションとは「分かち合う」こと。
自分の持っている情報、考え、気持ち、欲求などを。
相手が自分と同じものを持ったときにコミュニケーションは成立したといえるが、これが難しい。
なぜ同じものを持つのが難しいのか?理由の一つは個々人の持つ「枠組」の相違。
「私は……」という文章を、思いつく限り書いていくと、簡単に数十の項目が書ける。
これは自己概念を、つまり自分が自分に対して持っている「枠組」を示している。
自分の属性、性格、考え方、趣味、欲求、状態などを書くことが出来る。
自分のことをどれだけ理解しているかが、人とのコミュニケーションの第一歩。
自分の性格や疲れ具合などを理解することで、心構えができる。

家庭裁判所の調査員だったころに手痛い失敗をしたことがある。
その日は朝からずっと何件も離婚の相談を受けていたが、午後に別の離婚の相談を受けた。
自分ではきちんと聴いているつもりだったが、相談相手に「ちゃんと聞いてくれていますか?」と言われ、気づかないうちに疲れてなんとなく聞いていたことに気がついた。
人はそれぞれ自分の周りに「箱」のようなものを持っている。
その人の「城」と言ってもいいだろう。
それには外から見える部分と、見えない部分がある。
ある人は白い四角い箱、ある人は赤い三角の箱というように。
相手にボール(言葉)を投げて、そのまま受け止められれば、相手と同じものを持てているといえる。
実際には、赤い三角の「箱」から赤いボールを投げても、相手には白いボールとして受け取られることがある。
むしろ違う形で受け止められることが日常。
赤いボールを投げたら、相手が赤いボールとして受け取っているか確認する。
ボールは基本的にそのまま伝わらないものだと認識する。
確認することを失礼だと尻込みせず、気軽に確認できる職場作り、雰囲気作りが大切。

ではみなさん、わたしの言う言葉を用紙に描いてください。
画面の右上から左下に向かって流れ星が一つ流れています。
星の下には一軒の家。
家の前には池があります。
家の裏には一本の大きな木。
池にはアヒルが3匹泳いでいます。
木の上に三日月。
家の正面に日の丸の旗がかかっています。
渡り鳥が2・3羽飛んでいます。

どんな絵になったでしょうか?
星の位置は?池は家のどちら側?月の向きは?渡り鳥は何羽?
皆さんで絵にかなりの差がありますが、どれが正解でどれが間違いでしょうか?
これはどれも正解。
なぜなら、わざとあいまいな伝え方をしたから。
表現の受け止め方で、同じことを聞いても違う絵になる。
人は、聞くときに自分にとって大切なものを聞き、大切でないことは省略して聞くもの。

ミスコミュニケーションを防ぐ為に……

伝達する側は正確な表現をする。
相手を見て工夫する。
自分はちゃんと言った、相手が聞いていないだけ、と言うのは通用しない。
大げさに聞えるかもしれないが、警察の調書は誰がどう読んでも同じように理解できるように詳しく書く。

こたえる側は、わからない時はわからないと言う。
そう言える関係を作っておく。
コミュニケーションは一方通行ではなく、相手の反応を求め、確認する双方通行(tow way)で。
「きく」には3つある。
相手に合わせて心で「聴く」のに対し、心で「応える」。
自分の都合で耳で「聞く」のに対しては、口で「答える」。
自分の知りたいことを質問する「訊く」もある。


?受容する力−違いを受け入れること
「愛情」「正義」「富」「仕事」「楽しみ」「名誉」「健康」の7項目を、自分にとって大切だと思う順番で順位と理由をつけください。
それでは隣の席の人と見比べて……違いはあるでしょうか?
これは違っていて当然。
これだけの人数(70人ほど)が集まって、全員が同じ順位だとしたらそれは洗脳状態。
この順位付けは、当人の価値観に関わるもの。
価値観とは、ものの考え方や判断の基準となるものさし。
人それぞれで異なっている。
異なっていることは悪いことではない。
価値観とは、その人が通過してきた集団や関わってきた人との間で、また時代の中でつくられ変化していくもの。
ある一つの事例をみて、自分と相手の評価が分かれたとき、違いだけを見るのではなく、なぜそう判断するのかの価値観まで遡ることで、違ったままで相手を理解できる。

「つきあい」と「おつきあい」に違いはあるだろうか?
「つきあい」に入るのは家族や親しい友人などだろう。深い関係で、ぶつかることを恐れない。
「おつきあい」は表面的な関係で、相手に合わせる。自ら望んだ関係ではない。
交際相手が「おつきあい」から始まることもあるだろうが、夫婦が「おつきあい」ではいけない。
仕事仲間は「つきあい」の関係だろうか?「おつきあい」だろうか?
「つきあい」という言葉は、言語学からも「角をもつ獣が角と角をぶつかり合わせ競う様子」から出来た言葉だと言われている。
「枠組」はその人の持つ「角」。
角と角とを突き合うことで相互理解が生まれる。


?観察する力
対話力の原点は観る事。
通常は言葉を使ってコミュニケーションしている。
言葉は自分の都合によって変えることが出来るが、体は正直。
目やまなざし、姿勢、表情、ジェスチャー、声の調子、からだの反応、相手との距離などからサインを読み取ることが出来る。
礼儀としてだけでなく、相手を理解するために、相手を観て会話を。